近年、アカデミック・インテグリティ(学問における誠実性・公平性・一貫性)は、ますますグローバルな課題となっています。教育・研究機関は国境を越えてつながり、研究とリソースを共有しています。また多くの学生が、さまざまな国で学び、グローバルなコミュニケーションが必要とされる職業に就いています。さらに脱工業化社会においては、「アイデア」が仕事に必要不可欠なものとなってきています。
そうすると、独創的な思考力とオリジナルのアイデアを育むためには、世界中のどこで学習が行われていようとも、アカデミック・インテグリティを支えて、言語の壁を越えることが重要です。
アカデミック・インテグリティに対する包括的なアプローチ方法
- 世界的に統一された定義の言葉を用いること
世界基準の言葉を使用し、共通定義を認識することが、アカデミック・インテグリティへの共通理解を深め、価値観を共有するための第一歩です。同様に、授業の中で教員がアカデミック・インテグリティを明確に定義することで、学生は何が学術不正にあたるのかをはっきり理解することができます。そのような足場固めをすることが、包括的なアプローチの第一歩です。 - 明示的な指導で、不注意による不正行為を軽減
明示的に指導をすることで、学生の授業参加と帰属意識を高め、アカデミック・インテグリティの枠組みに馴染みのない学生を支援できます。たとえば、個人課題とグループ課題の違いを明確に定義することで、学生同士の共謀を防ぐことができます。個別に評価される課題はグループでやるべきではないことを学生が理解すると、越えるべきではないラインをより明確に意識するようになるでしょう。 - 頻繁な形成的評価の実施
形成的評価は、スキルを習得するための実践的な授業(習熟志向型授業)に役立ちます(Lang, 2013)。ラングは、「学生が本当にその教材を学んで習得したいと思うなら、不正行為はかれらの役に立たないだろう」 と述べています。また、フィードバックループは学生の学びを支え、「見られている」という実感を学生に与えるだけでなく、教員にとっても指導に関する洞察をもたらします。 - 学習を正確に測る学習評価
学生自身が学びの機会として捉えられるような学習評価を設計し、学習の成果を可視化して学びを促進すると、学生は教員や学習内容とつながりを感じ、不正行為をおかす可能性が低くなります。そうすることで、指導と学びのギャップを埋めることができます。 - 文化的な差異への理解
アカデミック・インテグリティの概念は西欧文化に基づいています。フィッシュマンは「個人の責任を重視するアメリカの理想がオーナーコードや誓約文などの慣例につながった」 (2015)と述べています。ある文化では敬意を示すものが、別の文化では逆になることもあります。文化の違いは、アカデミック・インテグリティへのアプローチに影響します。いくつかの文化圏では、模倣は大きな尊敬を示す形ですが、西欧のアカデミック・インテグリティの理想のもとでは、帰属を示さなければ盗用・剽窃とみなされます。学生の出発点の背景にあるものを理解することで、学生の学びをサポートできます。
重要なのは、文化は人種や出身国を越えるということです。文化は年齢や世代など、アイデンティティを構成する多くの要素で成り立っているのです。北米では時間の経過とともに、「自己責任」という表現がその対極の意味さえも内包するように進化し、他者への責務から「だれもが皆のために」という価値観が生まれました(Aeon, 2021)。年齢集団を越えて価値のやりとりが行われているのです。そのため、文化の違いを構成するすべての要素を考慮することが重要です。
Turnitinの多言語コンテンツデータベースについて
言語ごとの膨大なコンテンツ・データベースは、より多くの学生と教員の役に立つだけでなく、アカデミック・インテグリティの世界的な統一にも寄与します。当社のソフトウェアでは、学生の提出物や出版物の内容を176の言語で識別し、英語以外の内容の類似性のチェックも行います。Turnitin Feedback StudioとOriginalityの利用者は、40以上の言語の提出物を比較し、提出物の言語と英語、両方の言語で類似性レポートを活用できます。
英語以外の言語でTurnitin 製品の活用は年々大幅に増加しており、世界的にアカデミック・インテグリティを重視する傾向が進んでいることが分かります。とくに飛躍的に増加しているコンテンツデータの言語は、韓国語、アラビア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語です。今後、さらに多くの言語での採用を見込んでいます。このように使用言語の広がりを追跡することで、私たちは使用頻度の低い言語を特定し、どうすれば世界中の学生と教員をサポートできるかを考えています。
日本語コンテンツに関してもデータベースは成長しており、2022年5月に締結した科学技術振興機構(JST)とのパートナーシップにより、同機構が事務局を務めるジャパンリンクセンター(JaLC)とターンイットインのデータベースを連携したことにより、日本語コンテンツは拡充されています。
連携しているコンテンツは、下記の通りです。
- JaLC会員機関(剽窃チェックサービスの利用を希望する会員機関)が、JaLCを通してDOIを登録したコンテンツ。
- JaLCを通してDOI登録されたJ-STAGE登載コンテンツ全件。※ 2021年12月末時点で、約260万件。
まとめ
ラングは、「不正行為は、学習環境が学生の役に立っていないことへの不適切な反応である」と指摘します(Lang, 2013)。この指摘に示されている責任は明らかです。学生が不正行為とは何かを知り、それが間違いであると理解していなければなりません。さらに、教員は、学生が「見られている」「支えられている」と感じられるようにカリキュラムと指導を強化し、アカデミック・インテグリティを保持しなければなりません。
そして教員の立場から、学術不正とは何かを学生に明確に示し、不正行為は不適切な対応であることを理解させることで意識を高め、アカデミック・インテグリティの包括的な文化を授業の中で築くことができます。また、学習コミュニティの中で学生の帰属意識を育てることもできます。指導内容に沿って、学習を正確に測る学習評価を実施し、学習評価を有意義な学習機会にしましょう。そして、形成的評価を頻繁に実施し、フィードバックループにより学習を支え、学生と教員のコミュニケーションを作り出しすことで、「見られている」という実感を学生に与え、不正行為の機会を減らすことも必要です。これらの取り組みを支えるためにターンイットインにできることは、可能なかぎり多くの言語を当社の製品に組み込み、世界中の教員と学生をサポートし続けていくことです。