ChatGPTによる文章生成は、アカデミック・インテグリティ(学問における誠実性・公平性・一貫性)に大きな影響を及ぼす可能性があることから、教育と学習の分野で注目の話題となっています。教員は、ChatGPTとAIによる文章生成を授業のカリキュラムに取り入れるべきなのでしょうか?それとも、AIによる文章生成を全面的に禁止して遠ざけておくべきなのでしょうか?教員の反応は極端に二分化していて、初期の下書きを容易にするために使用している、あるいは使用を考えている教員がいる一方で、使用を一切望まず、AIによる文章生成の使用はすべて不正行為の一種とみなす教員もいます。
AIによる文章生成に関して言えば、私たちは後戻りできないところにいます。企業はブログの執筆や他の目的のためにAIによる文章生成を使用し、新聞社は以前から長らくAIによる文章生成を使用しています。そのため、AIによる文章生成の使用は学生の就職に必須のスキルになるかも知れません。その一方で、学生がAIによる文章生成を使用し、それを自分のオリジナルな文章として提示するといった不正使用に対する懸念が、教育現場では切実なものとなっているのです。
本稿では、前後編に分けて、ChatGPTの不正利用や学習に関する懸念点だけでなく、ChatGPTがもたらすポジティブな点についても考察していきます。まず前編では、ChatGPTとは何か、学生はChatGPTについて何を理解しているのかについて説明し、ChatGPTの不正使用に関する懸念について考察し、AIによる文章生成とアカデミック・インテグリティについて学生とどのように話し合えばよいかご紹介します。
ChatGPTとは何か
AIの研究企業であるOpenAI社は、2022年11月30日にChatGPTを公開し、提供開始から2ヶ月で1億人のアクティブユーザーを獲得し、ChatGPTは史上最も急成長したコンシューマー向けアプリとなりました。ちなみに、TikTokは同等のユーザー数を達成するのに9カ月、Instagramは2年半かかりました(Ortiz, 2023)。
ChatGPTは、AIを用いた自然言語処理ツールであり、ユーザーは人間と会話するかのようにチャットボットと対話することができ、人間の言葉で質問に答え、メール、エッセイ、プログラムのコードを作成することができます。また、Generative Pre-trained Transformer(GPT)と呼ばれる言語モデルアーキテクチャで動作しており、Googleが最新のデータにアクセスできるのに対し、ChatGPTは2021年までの情報にしかアクセスできません。
学生がChatGPTによる文章生成について知っていること
AIライティングについて議論を始めるにあたっては、先入観を持つことなく、学生がChatGPTについて何を理解しているかを知ることが重要です。学生はChatGPTどのようなものであるかをよく知っていますし、その多くは、AIライティングとアカデミック・インテグリティとの関係についても的確に把握しています。
ニューヨーク・タイムズが学生にChatGPTについて感想を尋ねたところ、学生の回答は洞察に富んでおり、教員の間で交わされている論議を反映したものとなっていました。学生は教員と同様に、ChatGPTを極めて有能ながらも時に不正確なツールであると認めており、AIライティングに依存しすぎれば、自身の学習に影響しかねないという懸念を示しました。「一番心配なのは、自分がこういったツールに頼りすぎて、批判的で創造的な思考能力を失ってしまうことだ」とある学生は言います。「個人的には、自分を明確に伝えるコミュニケーション法を学びたいし、学生として独自の明確な表現能力も身に着けたいと思っている。ChatGPTに書く内容を頼ってばかりいると、書き手としての向上心がなくなってしまうかもしれない」(Faris)。また、AIライティングは完全にカンニングの一種だと言う学生もいました。「もし学生が学校でChatGPTについて教わることもなく、操作方法を学ぶこともなければ、文章を生成するAIで溢れるであろう今後の人生に向けて何の準備もできないということなる」と、AIライティングを受け入れた学生もいました(Whit, Byfield, MA)。
以上は、Walton Family FoundationのImpact Researchが幼稚園から高校までの教員と12歳から17歳の学生を対象に実施した調査結果を示したものです。教員と学生との間で結果に違いはありませんでした。例えば、調査では「教員と学生はChatGPTを学校教育に取り入れることが重要だと考えている。学生の3分の2(65%)、教員の4分の3(76%)が、学校へのChatGPTの導入が将来的に重要になるという見方を支持している」という結果が出ています(Impact Research, 2023)。
Intelligentによる別の調査でも、ニューヨーク・タイムズの学生対象の調査と同じ結果が出ており、「ChatGPTを宿題に使ったことのある学生の4分の3が、『どちらかと言うと』(46%)または『間違いなく』(29%)不正行為だと答えている。ChatGPTのことは知っているものの、まだ使ったことがないという学生を含めると、この数字はさらに大きくなる。このグループを含めると、80%が『どちらかと言うと』(48%)または『間違いなく』(32%)不正行為だと回答している」と報告しています。
ところが、「このツールの使用が他の学生の間でどの程度使われていると思うか尋ねたところ、76%が『ある程度』使われている(50%)または『よく』使われている(26%)と回答している」と報告しています。つまり、AIライティングの使用は不正行為だと考えているにもかかわらず、結局のところ学生は使ってしまうのです(Intelligent, 2023)。
結論は以下の通りです。学生は、ChatGPT、AIライティング、アカデミック・インテグリティについて、いつでも話ができる用意があります。彼らにはChatGPTに対する問題意識と独自の暫定的な考えがあります。ChatGPTとアカデミック・インテグリティの関係について、細部にわたって良し悪しを区別して明確さをもたらし、AIライティングの不正使用とは何かを定義するのは教員の役目です。
ChatGPTによる文章生成について学生と議論する方法
アカデミック・インテグリティに関するすべての問題と同様に、AIライティングとChatGPTに関する議論では、学生に自分は見守られている、サポートされていると感じさせることが重要です。教員との絆を感じている学生は、カンニングをする可能性が低いという研究結果があります(Orosz, Tóth-Király, Böthe, Kusztor, Kovács, & Jánvári 2015)。したがって、AIライティングやChatGPTの使用と不正使用についての意見交換をどのように行うか次第で、学生と教員の関係を強化し、アカデミック・インテグリティへの結びつきを強め、AIライティングやChatGPTの使用についての理解を深める機会となるかどうかが決まります。
ChatGPTによる文章生成について学生と議論する際に留意すべき点は以下の通りです。
- 学生を中心に考える
- 安心できる場を作る
- 明確さと細部にわたる良し悪しの区別を提供する
- 振り返る余地を与える
1. 学生を中心に考える
ChatGPTについて話し合いを始めるのに最も簡単な方法として、学生にどんなことを知っているかを尋ねたり、知っていることや懸念事項、疑問点について書面で提出してもらったりすることがあげられます。ちなみにこの書面は、より正直になってもらうために匿名でもかまいません。AIライティングについての理解を深め、学生の疑問を解決することを中心に置くやり方は、AIライティング、ChatGPT、アカデミック・インテグリティについての議論を始めるのに効果的な方法のひとつです。当然のことながら、コンセプトについて説明をしてほしいと思う学生がいるかもしれませんし、教員も知っていることを共有する必要があります。しかし、まず学生に聞き取りをすることで、彼らの当事者意識を高めることができます。
2. 安心できる場を作る
教育現場では、AIライティングやChatGPTに話題が集中しているため、学生はこの件を完全にタブー視しているか、議論するにはリスクが高すぎると感じているかもしれません。ChatGPTやAIライティングに関する疑問や意見について、小グループで学生が議論した後、それらを教室全体のクラス討論で共有することで、安心してAIライティングについて話ができる場を作ることができます(そうすることで、誰が何を言ったかを特定することが難しくなります)。安心できる場を作る別の方法として、AIライティングやChatGPTに関する質問を、事前に学生に匿名の書面で提出してもらうというのもよいでしょう。また、より客観的に提示された話題について議論すれば、安心感が増します。
AIライティングに関して第三者が書いた報道記事に対して学生に意見を述べてもらうことで、それがどんな洞察であろうと面識のない誰かが書いた記事に対する反応として捉えられるようにすると良いでしょう。
議論を始める前に、基本的なルールやガイドラインを示しましょう。教員が作っても良いですし、授業で学生に作るよう誘導しても構いません。その際に、人に対してではなくアイデアに対して批評すること、全員に発言の機会を与えることなどの礼儀や敬意、安全性に関するルールを含めると良いでしょう。また、議論の前に基本的なルールを決めておくと、緊迫した状況になったときに、全員がルールに立ち戻ることができます。
3. 明確さと細部にわたる良し悪しの区別を提供する
AIライティングの適切な使い方に焦点を当てることは、AIライティング、ChatGPT、アカデミック・インテグリティについて学生とどう話し合うべきかという問題の核心となります。AIライティングの使用についてその是非をはっきりさせたり、全面的に禁止したりしたくなりますが、現実にはAIライティングやChatGPTは無視できない存在となっており、正面から、かつ細部にわたって良し悪しを区別しながら取り組むべきものです。学生もいずれAIライティングの使用に直面するという現実もあります。ChatGPTの不正使用と正当な使用の違いがどこにあるのかを理解するためのツールと知識を提供することは、生涯学習とアカデミック・インテグリティに不可欠です。
AIライティングツールへの依存は批判的思考に影響を与える可能性がありますが、AIライティングツールについて話すことは、批判的思考と分析に役立つ絶好の機会を提供してくれます。参考資料としてAIライティングとアカデミック・インテグリティに関するリソースも(授業でAI生成文章に対処するためのガイドなど)ご活用ください。
AIライティングが学習に与える影響とは、肯定的なものも否定的なものも含めて、どのようなものがあるのでしょうか? AIライティングが学問以外の分野、例えば報道分野で普及している場合、その適切な使用と不正使用の違いはどこにあるのでしょうか?適切な使用とは、どのように行われているのでしょうか?不適切な使用とは、どのように行われているのでしょうか?このような疑問は、AIライティングツールをいつ、どこで、どのように使うのか、またなぜ使わないのかについて、さらに理解を深めるきっかけとなります。
4. 振り返る余地を与える
振り返ることは学習の重要な部分です。匿名で、または採点課題として、学生にクラス討論を振り返ってもらい、それを記述させることで、さまざまなタイプの学習者がクラス討論をまとめ、自分の知識を示す機会を持てるようにしましょう。これは同時に、AIライティングに関するクラス討論で学生が実際に重要な収穫と感じたことについて、教員が気づきを得る機会にもなります。課題の焦点をクラス討論の論点に当てても良いでしょう(そうすることで同時にChatGPTの不正使用が非常に難しくなります)。このように振り返って総括することは、学生が議論についてどう感じたかを述べたり、まだ答えの出ていない疑問点を共有したりする機会にもなります。
ChatGPTによる文章生成に関する論点と学生への問題提起の仕方
AIライティングとインテグリティについて学生と議論することは、細部までコントロールできることではありませんが、論点を持つことは重要です。そして、これらの論点の中核となるのは、教育現場でのChatGPT使用に関する懸念と利点です。以下は、検討したほうがよいと思われるいくつかの論点です。
論点1:教育現場におけるAIライティングの最大の懸念
全米教育協会は、「最大の懸念はカンニングだ。Study.comの調査によると、教員の4分の1以上が、チャットボットを使ってカンニングをしている学生を見つけたことがあるという。ChatGPTで生成された文章の流入により、多くの教員はAIによる盗用・剽窃のチェックや、"AI対策" のための授業計画の見直しに多くの時間を費やしている」と報告しています(Blose, 2023)。学生との議論では、この懸念に同意するかどうか、また「AIが通用しない」課題とはどのようなものだと思うか問うこともできます。
論点2:AIを用いた不正行為の定義が難しい理由
AIライティングの不正使用は、教育現場と産業界のどちらで使われるかによって変わってきます。使われ方が最もよく似ているのに、違いが現れるのは、ソフトウェア開発とプログラミングの分野です。
ソフトウェア開発では、エンジニアが他の人と協力して作業するのが標準的な方法です。また、Githubやオープンソースソフトウェアで公開されている他のエンジニアのコードを出典を表示せずに使用することも通常行われていることです。一方、ソフトウェア工学のコースで学生が他人のソースコードを使用することは、プログラムの盗用・剽窃と呼ばれ、個別評価のための課題を共同作業で行った場合には共謀と呼ばれます。
どちらの場合でも、共同作業や共有リソースの利用は、特に産業界では、状況にもよりますが、「悪いこと」ではありません。AIライティングを使用したことを非開示にしたまま学生がそれを自分のものとして提示すれば、往々にして不正行為とみなされるおそれがあり、それはソフトウェア工学の学生が個人課題の解答にGithubのようなオープンリポジトリを使用するのと同等の不正行為となります。
論文代行とは異なり、AIライティングには、使っても問題とならない使用事例、例えばAIライティングを教員がカリキュラムに取り入れ、学生が透明性のある方法で使用するといった事例があります。
ジャーナリストがAIライティングを使う場合と、学生がAIライティングを使う場合の違いは、当然のことながら学生はまだ学習段階にあり、教員に理解度を示す必要があるということです。授業中にAIライティングを非開示のまま時短の手段として使用することは、学習に影響を与えるため、不正使用と見なされてしまいます。
学生が取り組んでいるのは学習であることを強調するのが重要です。AIライティングの使用はすべて開示されるべきであり、学生がAIライティングツールを使用し、出典を明示しないまま自分個人のオリジナルな成果であると主張した場合、それは不正使用・不正行為に相当するおそれがあります。
論点3:AIライティングツールは禁止されるべきか?なぜ一部の学区では禁止されたのか?
OpenAIのChatGPTが公開されて数日から数週間のうちに、アメリカ、オーストラリア、イギリスなど世界中で多くの学校がChatGPTの使用を全面的に禁止しました。
この出来事は、AIライティングの使用に関して細部にわたってその良し悪しを議論する際に起点となる論点となります。そして、AIライティングについて、個人的な見方ではなく、より学術的な見方で議論する方法となります。今やAIライティングツールの使用禁止は効果的ではないことが分かってきており、学生も教員も、ChatGPTが有用な可能性を持っていることを徐々に受け入れるようになっています。好ましい使い方とはどのようなものか学生と議論するのも良いでしょう。
論点4:AIライティングと学習の関係
AIライティングは、学生の発想や構想に役立ちます。AIライティングツールは学生のために教材を翻訳することができるので、英語など他の言語を学んでいる学生が、新しいコンセプトを吸収しながら言葉の壁を克服するのに役立ちます。AIライティングが学習にどのような悪影響を及ぼすのか、あるいはどのような利益をもたらすのかについて議論することで、学生は議論に主体性を持つことができ、AIライティングが学習に及ぼす影響をより深く理解することができます。
後編では、ChatGPTによる文章生成が学習に与える影響を中心に、懸念点だけではなくChatGPTによる文章生成の良い影響とそれを学生に伝える方法についても考察していきます。