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【前編】ハゲタカジャーナルやクローンジャーナルから研究のインパクトと研究公正を守る | ターンイットイン

ハゲタカジャーナルやクローンジャーナルが研究文化や研究実践に与える影響について、アカバナコンサルティング マシュー・ソルター博士へのインタビューをもとにしたブログです。

The Turnitin Team
The Turnitin Team
Matthew Salter
Dr Matthew Salter
Founder & CEO
Akabana Consulting
Amanda De Amicis
Amanda De Amicis
Content Writer
Turnitin

多くの研究者は、自分の名前で論文を公表したり、あるいは研究成果を社会に還元するための手段として、 自分の研究が認知されることを目標とします。しかし、科学の発展に貢献しようという動機が悪用され、 恩恵よりも大きな損害を引き起こすとしたらどうでしょうか。それこそが、 ハゲタカジャーナルやクローンジャーナルの増加で研究コミュニティが直面している問題です。

ターンイットインでは過去にハゲタカジャーナルの現状について調べましたが、今回、学術出版の権威であるマシュー・ ソルター博士からこの問題についての見解を伺いました。ソルター博士はアカバナコンサルティングの創設者兼CEOとして、 STEM分野の独立した出版・編集コンサルタント会社を経営し、学術団体や出版社に向けて、出版、編集、 プロモーションサービスを提供しています。出版業界や学術界・産業界での幅広い経験をもとに、ハゲタカジャーナルの現象を的確に洞察し、 その考えを共有してくれました。

本記事では博士へのインタビューを通して、ハゲタカジャーナルやクローンジャーナルがなぜ存在し、どのように存続しているのか、 どのような警告サイン(レッドフラグ)に注意すべきかを明らかにし、「研究公正への脅威を回避し、 責任のある研究を実施するにはどうすればいいのか」という根本的な問題について考えていきます。

ハゲタカジャーナルやクローンジャーナルとはいったい何なのか?また、その影響力は?

「真のジャーナルは、オリジナルの研究を検証して普及させ、高品質な成果を厳選し、社会に広く認知させるために存在します。他方ハゲタカジャーナルは、単純にオーナーの金儲けのために存在しており、公正な研究成果を記録して保存したり、公共の利益のために働いたりすることには何の関心も示しません」

マシュー・ソルター博士
アカバナコンサルティング創設者兼CEO


ハゲタカジャーナルを回避できるよう、その行為の明確な定義を知りたいと思うかもしれませんが、残念ながら、 ハゲタカジャーナルを決める基準については共通の認識が乏しく、普遍的に受け入れられている定義はありません。しかし、ソルター博士は 『ネイチャー』誌に掲載された次の説明が有用であると指摘しています。「ハゲタカジャーナルおよびその出版社は、 学問を犠牲にして自己利益を優先する組織であり、その特徴として、虚偽または誤解を招く情報、編集・出版のベストプラクティスからの逸脱、 透明性の欠如、積極的かつ無差別な勧誘行為のうちのどれか、あるいはすべてが含まれる」

ソルター博士によると、クローンジャーナルも上記と似たような特徴をもっていますが、加えて、 「本物のジャーナルのタイトルやISSNを悪用し、文章や数字、ウェブサイトのURLを少し変えて合法的に偽造コピーする要素」も含んでいます。

インターアカデミーパートナーシップ(IAP)は 2022年の包括的な報告書「Combatting Predatory Academic Journals and Conferences(ハゲタカジャーナルとハゲタカ学会への対処)」のなかで、 ハゲタカ出版のスキームが世界中で少なくとも100万人の研究者に影響を与えており、 無駄な研究や妥協した研究を生みだすことで数十億ドルもの損失をもたらしていることを立証しています。 そして世界中に存在するハゲタカジャーナルの数については、15,000を越えるとの推計があり、明らかに小さな問題ではないことが分かります。

さらに、上記のIAPの研究によると、112カ国1,800人以上の参加者のうち80%以上が、ハゲタカジャーナルやハゲタカ学会が 「自国で深刻な問題、あるいは問題になりつつある」と認識しています。ハゲタカ出版社が特に多い地域の共通点としては、低・ 中所得層が多い南アジアが挙げられています。

たとえば、パキスタンでは400人以上の学者や研究者が、およそ150もの捏造論文を出版実績として掲載したクローンジャーナルに論文を投稿したことが明らかになりました。純粋にだまされた学者もいれば、 積極的に不正行為に荷担した学者もいると言われています。このスキャンダルを受けて、パキスタン高等教育委員会は、ジャーナル認定システム (HJRS)を強化すると誓いました。

なぜこのような現状になったのか?

数々の研究が、ゴーストライティングやゲストオーサーシップが研究界に蔓延していることを示しています。 Nature誌に掲載された論文によると、参加した科学者の10.0% が「オーサーシップの不適切な割り当て」に関与しており、 中堅キャリアの研究者にいたっては12.3%が関与を自認しています (Martinson, Anderson, and de Vries, 2005)。より最近の、 2011年の研究では、「査読付き雑誌3誌のなかで、名誉著者やゴーストオーサーが見られた割合は、前者が14.3% で後者が0.9%であった」ことが示されています。 (Dotson & Slaughter, 2011)。さらに、 2002年のコクランの研究では、 論文の39% に「名誉著者」が、9% に「ゴーストオーサー」が認められました (Mowatt, et al., 2002)。

それらの具体的な数字は異なりますが、様々な重圧のもとでゴーストライティングが行われていることが証明されています。

ゴーストライティングは、経済的なチャンスを広げる手段のひとつとして捉えられています。企業に雇われているメディカルライターにとって、 それはキャリアを積むチャンスになります。学術研究者にとっては、企業との共同研究は名声や資金援助につながるかもしれません。 そして学術界との関係を築くことは、「企業のスポンサーにとっては、製品を宣伝するための世界的なパブリケーション戦略の一部」となっています (Bosch & Ross, 2012)。

研究の性質そのものが曖昧さを生むこともあります。共同研究は、学術の世界で成功するために欠かせない要素となっています。 また資金調達も、たいていの場合、関連する企業と結びついています。しかし、こうした協力関係が境界線を曖昧にすることが多いと言えます。

共同研究に対する認識が広まったことにより、複数の著者で研究論文を書くことが奨励されてきました。 とくに著名な学者の名前を論文の共著者に加えることで、研究者は自分の研究成果の評判を高め、より権威のある学術誌での掲載の可能性を広げ、 より多くの読者を獲得しようとする試みも一部で見受けられます。

実際、2009年の研究で次のように述べられてもいます。「問題のひとつは、著者の名声が論文の信用性を高めることだ。かつて、 同僚のひとりが話してくれたことだが、彼の国では、十分な報酬をもらえればどんなものにでも名前を貸す教授もいるので、 研究論文の手法を知るよりも著者を知る方が重要であるそうだ。また、ひとりの著者による薬品のメタ分析で、 その著者の能力をはるかに越えた高度な分析が書かれた論文を見たことがある。誰が分析をしたのか(おそらく、誰がその論文を書いたのかも) まったく触れられていなかった。同様に、多くの薬品レビューは表記の著者によって書かれたものではないだろう。それらの教授は、 スポンサーのサプリメントや、ほとんど読まれることがなく、インパクトファクターもない周辺雑誌のために、 一冊の本ほどの長さの薬品レビューを書くより、もっと重要な仕事があるはずだからだ」(Gøtzsche, et al., 2009)

そのような「名誉著者」や「ゲストオーサーシップ」がゴーストライティングと結びついてきました。学術不正は「滑りやすい坂道」で、 一歩間違えると転落しかねません。

ゴーストライティングの慣例が増加している理由は、それが、明白な研究不正ではなく、軽微な不正であると見なされることが多いからです。 (他方で、盗用・剽窃は明白な倫理違反です。)そのため、経済的な報酬やキャリア上の利点を目の当たりにすると、罰せられるリスクよりも、 ゴーストライティングに関与する方が得られるものが大きいと判断すると言えます。

ゴーストライティングがアカデミック・インテグリティに与える影響

ハゲタカジャーナルやクローンジャーナルの台頭について調べると、複雑な事情が見えてきます。 ハゲタカジャーナルがどのように研究界に入りこみ、研究者を勧誘しているのかを理解することは、研究者に重圧を与え、 ハゲタカジャーナルが売りにする「ソリューション」への需要を生みだしているシステム的な要因に目を向けることを意味します。

問題とすべきは、「出版か死か(publish or perish)」の考え方がハゲタカ出版業界の原動力となっていることです。 ペテル・ニールセンとロバート・M・デイビッドソンは論説「Predatory journals: A sign of an unhealthy publish or perish game?(ハゲタカジャーナル:不健全な「出版か死か」ゲーム終了のサインか)」において、ハゲタカ出版社が、 研究者の期待と結びついた「緊急かつ満たされないニーズ」をいかに食い物にしているかを批評しています。そのニーズの背景には、 所属組織や雇用者が論文出版の目標値やノルマを課しているが、名のあるジャーナルは投稿論文のすべて、 あるいは大半をアクセプトするわけにはいかないという現実があります。

ニールセンらは「そのような数字の重視により、他の疑わしい不健全な行動、たとえば、名声のあるジャーナルに手が届かない場合は (意図的か不注意かは別にして)ハゲタカジャーナルで出版する傾向が現れるかもしれない」と指摘します。

さらに論理的に言うと、出版のオープンアクセス化の流れがハゲタカジャーナルによる制度の悪用につながり、 論文を出版して研究者としての名声を得たいと願う研究者(とくに若手研究者)が被害を受けているのです。ソルター博士はこう述べます。 「ハゲタカジャーナルはオンラインジャーナルやオープンアクセスジャーナルの台頭による、意図しない不要な副産物なのです。 基本的にすべてのハゲタカジャーナルがオープンアクセスである(そうでないものを見つけるのは困難だ)と言える一方で、 すべてのオープンアクセスジャーナルがハゲタカジャーナルなわけではありません」

ソルター博士は従来の購読型出版モデルはB2Bの性質をもつと指摘します。つまり、旧来のモデルでは、 研究機関と出版社のあいだで正式な契約を結び、通常は、熟練した経験豊富な図書館の専門家がジャーナルを管理します。それに比べ、 オープンアクセスジャーナルの大半は、出版社と個々の研究者あるいは研究団体のあいだで取引が行われるB2Cモデルで運営されています。 このため、不実な出版社はより簡単にハゲタカジャーナルを立ち上げて運営することができ、また、それらが摘発される可能性も低くなっています。

さらに、個々の研究者は、一般的にはハゲタカジャーナルをチェックする習慣も動機もなく、出版社の正体を確かめるよりも、より早く、 より安くに論文を出版する手段を優先しがちです。その結果、詐欺の被害者になってしまうのです。また、ハゲタカジャーナルは事業を一度たたみ、 別の場所で新たな名前で再開することが容易なので、かれらの活動を監視して、継続的に戦い続ける必要があります。


ハゲタカジャーナルの要因は重層的で、さまざまな要因が交錯していますが、ソルター博士は以下の点を指摘しています。

  • 論文をできるだけ多く、できるだけ早く出版すべき、という研究者へのプレッシャー
  • ジャーナル数の急激な増加により、ハゲタカジャーナルと本物のジャーナルの見分けがつきづらくなっていること
  • オンラインジャーナルは参入障壁が低く、「ジャーナル」っぽく見えるものを立ち上げるのが比較的容易であること
  • ハゲタカジャーナルに掲載することのリスクを著者側が認識していないこと
  • ハゲタカジャーナルを明確に特定することの難しさ


後編では、ハゲタカジャーナルの見分け方や研究公正の文化を促進することで実現できるハゲタカジャーナルへの対応策について、 ソルター博士の洞察をご紹介します。

また、ソルター博士が考案された“正しいジャーナル選びのための研究者用チェックリスト“をターンイットイン用に作成いたしました。 下記リンクよりダウンロードしていただき、ご活用いただければ幸いです。