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デジタル時代のアカデミック・スキルズ Vol.2 : 英語教育と「言語文化」 | ターンイットイン

辰巳 遼
辰巳 遼
講師
京都外国語短期大学, キャリア英語科

京都外国語短期大学にてキャリア英語科をご担当される辰巳遼講師に、「デジタル時代のアカデミック・スキルズ」 をテーマにご寄稿いただくシリーズのVol.2 となります。今回は、英語教育と「言語文化」の関連性について取り上げていただきました。

問題を解決するという姿勢と「信頼性」

デジタル時代におけるこれからの英語教育を考えていく上では、伝えるための英語をいかに効率的に使えるかが最重要な課題だと言えます。 英語を話せるか、もしくは書けるかということだけではなく、いかに相手を理解しながら情報を伝え、受け取ることができるかが重要です。つまり、 自分が英語で発信するのはもちろんですが、それに加えて相手、 いわゆるオーディエンスのことをしっかりと理解することもまた必要であるということです。

私が5年間授業担当講師として教えていた立命館大学では、 発信することを通して英語を身につけていくプロジェクト発信型英語プログラム(Project-based English Program: 以降PEP)が行われています。PEPでは、学生自身が好きなトピックを選んでプロジェクトを立ち上げ、情報を収集し、 伝達するまでのプロセスを学びます。むやみやたらに発信してうまくいかなかったり、 情報を詰め込み過ぎてしまったりという失敗もこのプロセスの中で学べるようになっています。

このようなプロジェクト型のプログラムを行う上で重要なのは、しっかりと目的を設定すること、 そして信頼性のあるデータに基づき誠実に発信することです。目的を明確にできれば、仮説を立てて、調査方法を定め、 どのように伝達するかを考えることが可能になります。また信頼できるデータに基づくことで、 各々のプロジェクトの完成度を高めることができるのです。

アカデミック・インテグリティと「他者」

1人で行うものではない以上、プロジェクト型のクラスにおいてアカデミック・インテグリティは重要になってくるでしょう。 プロジェクト型は本来的に自律学習を促すものですが、デジタル時代では自律学習から協働学習につなげる側面が不可欠となります。The International Center for Academic Integrity(ICAI)によれば、アカデミック・ インテグリティでは「正直」「信頼」「公正」「敬意」「責任」「勇気」といった価値観が求められていますが、 これら全ては自分自身で完結しないものであり、他者がいて初めて成立するものです。つまり、情報を集めて伝達していく過程で、 学生自身でいかに協働学習へと持っていけるようにするかが今の教育に求められているものだと言えます。その際に教員は、 信頼できるデータの収集方法や提示の仕方、また主張の援用としての引用方法など、 アイデアを人に伝えるための具体的な実践例を示す必要があるかもしれません。

このようにアカデミック・スキルズは、自分で問題を設定して自ら考え、他者との協働を通じて道を開くことを要求しています。 『プロジェクト発信型英語プログラムー自分軸を鍛える「教えない」教育』(山中司、木村修平、山下美朋、近藤雪絵著 2021)でも、「自分事」 のプロジェクトを他者との関係の中で発展させ、自己の成長を促すことが発進型であると述べられています(83)。 PEPのようなプロジェクト型のプログラムはインテグリティを含めた力を鍛えるという意味で有効な教育アプローチなのです。

言語文化の創り手へ

そしてもう一つ重要なことが、言語についての正しい理解です。言語はただ伝えるツールではなく、物事を公平に考える手法、 また文化を経験する仕方でもあります。日本では多くの大学で英語が教えられており、アカデミック・ライティングやアカデミック・ スキルズを扱う授業も増えています。しかしながら、アカデミックといっても何を持ってアカデミックというのかが定着しないまま授業は進められ、 結局従来の英語教育と同じような教授法に留まるケースが多いのも事実です。第1回でも触れましたが、アカデミック・スキルズとは、情報共有し、 議論するための高度な知識や能力、技法のことであり、その観点から見ると、英語教育は単に英語を学ぶためのものではなく、 高度な伝達能力と情報共有能力のためにあるべきだと考えるべきでしょう。そして、発信・伝達と情報の共有は他者からの「信頼」 の獲得を持って初めて果たされるものなのです。

発信型プログラムやアクティブラーニング型の授業の最も期待できる可能性として、「英語で発信する」を「英語で社会を豊かにする」 ことへの変換が考えられます。もちろんこれは英語に限らず「ことば」と言い換えることができるでしょう。これは、単なる言語ではなく、「差異」 を横断する言語文化の知識の実践です。自分の主張が他者にどう伝わるかを考えることは異文化理解のスタート地点と言ってもいいかもしれません。 英語を学ぶ学生の中には経済に関することや環境に関することに興味を持つ学生も少なくないです。 クラスメートでさまざまなトピックを共有しているとそれぞれの問題の関連性が見えてきたりすることもあります。英語教育は、 国際的な視野はもちろん、国際/地域的な問題に対してたとえ間接的であっても関わることができるのです。将来を担う人材となる学生だからこそ、 信頼に足る、他者と協働できるアカデミック・スキルズを養っていく必要があります。

参考文献
International Center for Academic Integrity [ICAI]. The Fundamental Values of Academic Integrity, Third Edition. 2021.
山中司、木村修平、山下美朋、近藤雪絵『プロジェクト発信型英語プログラムー自分軸を鍛える「教えない」教育』。北大路書房、2021。


連載次回はアカデミック・ライティング指導とアカデミック・インテグリティについて取り上げていただきます。