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研究不正を防止する価値観に基づいた倫理教育:早期教育の必要性(後編) | ターンイットイン

The Turnitin Team
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Amanda De Amicis
Amanda De Amicis
Content Writer
Turnitin

引き続き後編では、研究公正に関する教育が、研究者の倫理的活動にどのように影響するか見ていきます。 倫理的な研究行動の普及に寄与する可能性を持つと言われる「前向きな研究公正」という概念、 また研究公正の文化を築くためのアイデアを事例を交えてご紹介します。

研究の利益がうむリスク

本質的な問題は、研究から得られる利益が明確でなく、競争が頻繁に起こることです。 個々の研究者がステークホルダーの期待に応えようとして倫理的な葛藤を引き起こすこともあります。研究での不正行為はさまざまな形をとりますが、 「改ざん」「ねつ造」「剽窃」が主な学術不正として注目を集めます。研究資金や研究機関の評判に影響する事態に直面したとき、 個人あるいは組織の利益のために規範を無視したりルールを曲げたりする研究者がいる一方で、 不都合をものともせず道徳的に正しい選択をする研究者もいます。両者を分ける違いはどのようなものなのでしょう?

プリヤ・サタルカル博士とデイヴィッド・ショー博士の画期的な研究によると、 調査対象者が逆境におかれても誠実な行動を心がける根本的な原理として、子ども時代からの自尊心と結びついた価値観が挙げられています。 その研究の結論は、「博士課程の学生に研究公正のルールを教えることは可能であるが、 これまでに身につけたことのない誠実さを浸透させるには遅すぎるかも知れない」と、やや悲観的なものです。同様の指摘が2021年の研究でもなされています。その研究によると、 博士課程で初めて研究公正に関する知識を教えても「実質的な価値をもつには遅すぎる」ので、 もっと早い段階で教えられるべきであると述べられています。

ここで言いたいのは、早い段階での指導が非常に重要で、学術公正(アカデミック・インテグリティ)と研究公正(リサーチ・インテグリティ) に関する教育は、大学院生になる前、最大限の効果をあげるためには中等教育の期間に実施されることが理想であるということです。いわゆる 「時すでに遅し」とされる博士課程においても、研究公正のトレーニングは、現行の監視体制と自己規律を促進するのには役立つでしょう。 研究機関は、個々人の価値観に関わらず、優秀な研究者を支え、プロとしてのキャリアの成功をサポートすべきです。

研究公正(リサーチ・インテグリティ)のための前向きな予防策

研究論文の熱心な読者であれば、一般的に研究公正の話題は、良い研究実践の実証ではなく、 研究行為違反の結果というネガティブな話題で報道されることが多いことに気づくかもしれません。2018年のデイヴィッド・ショー博士らの研究では、 研究者が研究公正をどのように捉えているかについて調査した結果、研究公正とは「不正がないこと」と狭い意味で捉えているのは少数で、 大半がより包括的な意味で捉えていることが明らかになりました。しかし、 末端にいる研究者が倫理的な行動の原動力となる価値観を大切にしているというだけでは、「前向きな研究公正」 の文化を支える組織体制が整っているとは言えません。「前向きな研究公正」という概念は、2021年の別の論文のテーマになっています。 研究公正を教えるための対話的なアプローチに焦点をあてたその論文では、前向きな研究公正とは、「良い研究実践と価値観をもとにして、 研究文化と科学倫理を築くための前向きなアプローチで、模範的な振る舞いを促進し、公の信頼を育む」ものだと説明します。著者らは、 それらのアプローチが研究不正を防止するためにリスク回避的に活用されていることを明らかにし、それらの研究公正の指導方法が、 倫理的な行動を普及させる可能性を大きく秘めていると評価しています。その研究によると、予防的な話し合いのなかで「判断と根本原理」 について皆で共有することで、学生や若手研究者が研究公正の問題を内面化し、 話し合いを通じて考え方を自由に変えることができるようになるのです。

研究公正を育み、研究者として適した振る舞いを積極的に指導するという方策は、Turnitinのインタビュー動画Integrity Mattersのなかでロイヤルメルボルン工科大学の研究公正主任顧問を務めるダニエル・バー博士も触れています。 バー博士の説明によると、アジア太平洋地域、あるいは世界中で、研究公正への取り組みと成功を阻害するのは、何が研究不正にあたり、 何が違うのか、と狭い定義にこだわることです。研究公正についてもっと強固に概念化することが大切であると説明します。さらに、バー博士は、 学術コミュニティでは、誠実で良い実践が、論文出版という形でもないかぎり、正式に報われることがないことも指摘します。それはのちに、 すでに出版された論文を、倫理を犠牲にしても守りたいという、不健全な姿勢を強化する恐れもあります。現状では、 研究プロセスのなかで研究者を評価する仕組みが不足しています。研究公正を守り、その原則をよりよく理解するためには、研究・論文執筆の成果や、 データの適切な取り扱いなどについて、研究者の良い実践を可視化する仕組みづくりをバー博士は提案しています。

研究公正(リサーチ・インテグリティ)の文化を築く

研究公正の文化とは、研究不正に関する事後的な話し合いだけにとどまらず、もっと多くのことを意味するのは明らかです。 リスク回避は強力なモチベーションとなり、論文の撤回状況を追跡するブログ”Retraction Watch”などのウェブサービスは、 研究不正を露見させるうえで役に立ちます。しかし、同様に大切なのは、責任ある研究をするための価値観と向上心をより強く結合させることです。 アカデミック・インテグリティ、ひいては研究公正を学習経験の早い段階で定着させることで、意図的な不正行為を取り除くことにつながります。 「近道」としての無意識の不正行為や、ライティング時の悪癖も、早い段階で正す機会をもつことで、のちの人生でそれが再発したり、修士・ 博士課程や職業実践に持ち越されたりするのを事前に防ぐことができます。

では、中等教育で価値観に基づく倫理を活用し、高等教育で求められることへの理解の差を埋めるには、どうすればよいのでしょうか。 この課題は、世界中の多くの教育機関にとって新たな検討課題であるため、簡単な答えはありません。ただし、今後、 研究不正の摘発件数が増加していることを受けて、各国が研究公正について再編成をすることで、この問題は支持されるようになるでしょう。 この分野での一つの例として、日本の研究倫理推進協会(APRIN)による取り組みがあります。APRINのeラーニングプラットフォームは、 「RSE」(中等教育における研究)のための様々な教材を提供しており、倫理行動規範や、 学生が研究に直接参加する以上の役割を強化する活動も含まれています。「現代社会において、私たちは皆、研究活動に携わっている」 という彼らの中心となるメッセージは、研究の社会的影響を反映し、より広範で包括的な研究公正の文化を支えています。